日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者に於ける癌の頻度, 診断率および死亡率の検討
蔵本 築松下 哲江崎 行芳嶋田 裕之
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1993 年 30 巻 1 号 p. 35-40

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抄録

東京都老人医療センターに於ける1972年より1990年までの連続剖検4,894例, 平均年齢78.1±9.1歳に於ける癌の性, 年齢別頻度, 診断率, 死因となる割合について検討した. 60歳以上で癌は全対象の45.5%に認められ, 男性49.1%, 女性41.7%と男性に多く見られた. 年代別には60歳代50.5%, 70歳代47.9%, 80歳代43.2%, 90歳代39.3%と加齢に伴って減少した. 多重癌は70歳以上で約12%に認められた.
癌の頻度は胃癌 (15.0%), 肺癌 (10.7%), 大腸癌 (5.9%) が男女とも多く, 男性では前立腺癌, 肝癌, 食道癌, 胆嚢・胆道癌, 膵癌, 腎癌, 膀胱癌の順であり, 女性では胆嚢・胆道癌, 子宮癌, 膵癌, 肝癌, 乳癌, 甲状腺癌, 食道癌, 腎癌, 膀胱癌の順であった. 胃癌, 肺癌, 肝癌, 食道癌は男性に多く, 胆嚢・胆道癌は女性に多く見られた. 胃癌は男性で60歳, 女性で70歳以後ほぼ一定の頻度を示したが, 肺癌は60, 70歳代に多く以後漸減した. 前立腺癌は加齢により増加したが, 肝癌, 食道癌は減少傾向を示した.
最近5年間の癌の診断率は胃癌, 大腸癌は73%, 肺癌, 膵癌, 食道癌は80%~85%であったが, それらが死因となった癌の診断率は90%以上であった. 診断率の低い癌は甲状腺癌56%, 前立腺癌46%, 腎癌39%であり潜伏癌の比率の高いことに相応した.
癌が死因となる割合は胆嚢・胆道癌85%, 膵癌76%, 肺癌69%が高く, 肝癌, 食道癌が約61%, 大腸癌, 腎癌, 胃癌が50%~44%, 膀胱癌, 前立腺癌, 子宮癌, 乳癌, 甲状腺癌では20%~27%に過ぎなかった. 全体では55%で癌が死因と見なされた.
老年者では癌の進展, 年齢的特徴, 合併疾患等を考慮した最善の治療を選択すべきである.

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